新しい公共とインフラの町医者
愛亀企業グループ 代表 西山 周
よく聞かれます。地域の方々からです。『インフラってなんですか?』と。確かにインフラつまりインフラストラクチャは社会基盤整備という大上段に振りかぶった語意はなんとなく理解しているのですが、私としては単純な話、インフライコール公共工事じゃないのかとまったく勘違いをしていました。でもそれは十数年前のことでした。その勘違いをしていた頃、まさにこのままでは公共工事も減少して行くだろうと思われることが数多く具現化し始めました。
弊社は三年前までは金亀建設(きんきけんせつ)という社名であり、主たる生業は舗装工事の建設業です。ちょうど創業五十年を節目に愛亀(あいき)に社名変更をしました。その上、社名から建設という文字を取りました。しかしけっして建設業をやめてしまうつもりはありません。建設業もできる事業会社へ変化して行こうという決意です。とにかく建設業だけではやっていけない、そして簡単に事業の縮小均衡には走りたくはない、雇用や地域との繋がりを無視するような経営は、私が考える地域建設業のDNAではないと思ったからでした。そして、伝統は革新の連続だと思う自身への挑戦でもありました。
弊社は典型的な地方の専門工事業者ですから、技術職員・技能職員の質と量が強みです。ただしそれは公共工事が安定的に発注された場合です。しかし、一旦公共工事が減少へと向かい始めると、その強みが一転して弱みになります。だから、その強みを温存するために、今から12年前、農業生産法人『あぐり』を設立し、真摯に技能を磨いてきた技能職員を工事の閑期にのみ稲作へと振り向けることにしました。現在、農地50haを地域からお預かりし、無農薬無化学肥料、そして徹底的にセンサーや情報化技術を利用した土作りの精密農業を大学数校と連携しながら米を育てています。生産された米百数十トンは地域の量販店、飲食店、ホテル、そして個人への宅配へと販売しています。また、設立当初より地域内の家庭から出る剪定枝や食品産業の廃棄物を堆肥化する有機リサイクル事業の仕組みを作り、米を生産する動脈側の事業、有機リサイクルの静脈側の事業で道路舗装事業との要員の調整を図っています。あぐりの事業は黒字化したとは言え、減少した公共工事の売り上げ、利益を補うと言うよりも、雇用を安定化させ、そもそもの生業である道路舗装事業の強みを温存したいということが第一の目的でした。
あぐりを設立した頃から、そして今なお弊社を取り巻く事業環境には様々な変化があり、弊社内に新たに下水管路の調査・メンテナンスを行う事業部や環境的な資材を扱う事業部を新設しました。また、他の建設関連産業のいくつかの会社とご縁をいただき、同一資本の元でグループを編成することになりました。それは後継者不在の理由や金融機関からのM&Aの依頼からによる数社です。
現在弊社は9社13事業部から編成されています。愛亀には道路事業部、アスコン事業部、技術試験事業部、管路事業部、環境・建材事業部があり、単独の企業として造園会社、砕石会社、生コン会社、建設リサイクル会社、住宅リフォーム会社、コンビナートメンテナンス会社、不動産管理会社、そして農業法人があります。しかし、ほとんどが建設分野の会社ですから、現状はどれも同じように四苦八苦しています。単純な足し算的思考だけでは、グループの売り上げもただ合計されるだけで苦しさは同じ傾向にあります。
けっして、集まろうとか集めようと思ってのことではありませんが、この集まりを何かに活かせないものかと思い始めました。そこで考えたのがかけ算的思考というのか、グループ内の各社各事業部による相互補完の連携です。愛亀を『頂』点とした親会社の『副』業的子会社の関係ではなく、愛亀を『起』点にしながらも各社各事業部が同レベルで我々のすべての営業品目を回しあえる『複』業的で、それこそマルチな連携です。人財、資機材、資金、情報、やる気等、そして起点はどこからでもいいんです。例えて言えばサッカーのゲームのようなイメージかもしれません。各社各事業部の営業品目の書かれたボールをみんなで蹴りながら一つのゴールに向かって行く感じです。自分で蹴り出したボールを誰かにパスして、ワンツーで縦に抜け出すようなことかもしれません。たまにクロスも上げたり、スルーパスもします。
一例を挙げると、公共工事の閑期に道路事業部の重機オペレーター達が作った無農薬無化学肥料の米はよく一般家庭に宅配されます。その時に宅配するのはリフォーム会社の営業マンです。リフォーム会社の営業マンは宅配先のお宅とは次第に仲良くなりリフォームの相談を受け始めます。また米を作る際に使う堆肥は、家庭から出る剪定枝を地元の自治体と契約し受け入れます、そして建設リサイクル会社の社員がチップ化します。さらにそのチップは養豚業者と契約し、豚舎の床に使います。ほどよく動物の糞尿入りの堆肥となったところで、また工程の合間を縫い造園会社の社員達や道路事業部の重機オペレーター達が施肥するといったような具合です。これは一例ですが、全てマルチにそして団体戦で対処できるように心がけています。つまり、社員も会社もユーティティー性を高め、多能化し連携していかないと弊社は企業としての存続もそして雇用も守れない時代のような気がしてなりません。
そう考え行動していくと、インフラというものは公共工事の道路や橋だけではなく、我々の生活している地域を見渡せば田んぼや山林、そして仕組みも含めて様々あることに気づきます。地域の中で少しずつ分野の違う中小企業の集まりだからこそできる連携もたくさんあります。サッカーのプレイヤーは連携も重要ですが、個々の実力も上げてこその連携です。連携すれば個の力も強まるし、個が強くなれば連携がより効果的になります。ローカルで身近な地域の中で多面的なインフラの維持補修にグループで力を発揮できるようにと『インフラの町医者』という言葉を思いつきました。また最近では『新しい公共』という概念も出始めました。弊社も現実は成功と言える状況とはほど遠く四苦八苦です。出口も見えません。しかし、各地域には今までに構築されてきたインフラというハードがあります。それを利用し工夫すれば、地域ならではの新しい連携や仕組みをソフトとして作り出すことも出来ると思います。私たちの小さな力の集積をグローバルな視点で考え、ローカルで実行できる“グローカル”な地域作りの一端を担えるように挑戦し続け、地域から町医者として認めてもらえるようになりたいと思います。『くじけず、おごらず』





